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正しい病院の選び方

川崎幸病院 川崎大動脈センター センター長・心臓血管外来部長 山本 晋

患者さんはご自身の治療を受ける病院を選ぶ権利を持っている一方、正しい治療を受けられる病院を選ぶことは容易ではありません。
テレビや新聞・雑誌などのメディア、あるいはインターネット上の医療サイトや個人サイトでは不正確な情報が氾濫しているため、それだけで適切な病院を選ぶことは困難です。

当センターの外来を受診する患者さんの中には、氾濫する情報から適切とは言えない医療機関を受診した結果、誤った治療方針を示された方や、不適切な治療を受けられた患者さんが少なくありません。

以下に、患者さんご自身が病院を選ぶ際に、参考にしていただきたい指針を示しました。患者さんご自身が、短い外来診察時間内に必要十分な情報を得ていただくことを目的にしています。しかし、最終的には患者さんご自身が不明な点や心配な事項を担当医師に直接確認する以外にありません。

正しい診療を行っている病院・医師であれば誠実に答えてもらえるはずです。逆に、曖昧な回答や不誠実な対応をする病院・医師は今後ご自身の治療を行っていく上で適切な病院とは言えません。

  1. 治療実績の多い病院を選ぶ。

    近年、多くの病院が病院ホームページで手術件数を公表するようになりました。受診前には必ずその病院の治療実績(1年間の大動脈瘤手術件数等)を確認してください。

    公表していない病院を受診する際は、外来担当医に治療実績を確認することが必要です。大まかな目安として胸部大動脈手術、腹部大動脈手術、ステントグラフト内挿手術が年間それぞれ100件以上、合計300件以上行っている病院であれば十分な実績のある病院と言えます。一方、大動脈瘤の合計手術件数が年間100件以下の病院は治療を受ける上で適切とは言えません。

  2. 手術実施医(いわゆる執刀医)が外来を担当している病院を選ぶ。

    実際に手術を行っている医師であれば、患者さんの細かい質問や不安に対して適切な回答をすることができます。また、直接執刀医と話をすることで、その医師の手術に対する姿勢や考え方を理解でき、手術に対する不安が軽減されます。

  3. 診断・治療方針を明確にした上で、十分な説明を行う病院を選ぶ。

    当センターを受診した患者さんのご意見で非常に多いのが、「これまでかかっていた病院では、はっきりとした病状を説明してもらえなかった」「治療方針を明確に示してもらえなかった」というものです。治療実績の少ない病院・手術経験の少ない医師は、患者さんの診断や治療に対して自信を持った回答ができません。検査結果、特にCT検査の画像を患者さんに示しながら診断や治療方針をはっきりと説明する病院は、適切な治療を行っているといえます。

参考 大動脈疾患の治療を受ける上で適切とは言えない病院
  1. 治療実績が少ない、あるいは公表していない

    診断や治療のように、一定レベル以上の能力を必要とする手技は経験によって支えられています。一概に手術件数だけで判断はできませんが、手術経験の多い医師がその手術により習熟している可能性は大きいといえます。また、実績を公表しない病院は、実績が極端に少ない可能性があります。

  2. 治療方針が曖昧

    その治療に精通していなければ明確な治療方針を患者さんに示すことはできません。

  3. 十分な説明を行わない

    同様に、患者さんに納得できるような説明ができない医師は、治療に精通しているとはいえません。

  4. 年齢だけを理由に治療を勧めない

    患者さんの治療に関して、一つの条件だけを理由に手術を行わないという事は稀です。総合的判断に基づいた治療方針の決定が必要です。

  5. 手術の危険性(リスク)をことさら強調する

    はじめから手術以外やらないという病院はステント治療を実施していない可能性があります。また、ステント治療の方が体に対する負担が少ないと強調する病院は手術の実績が少ない可能性があります。手術・ステント治療の選択肢を示し、どのような理由でどちらの治療を選択するのかを明確に提示する病院を選択して下さい。

  6. 治療スケジュール(手術日等)をなかなか決定しない

    数か月に一度の外来受診のたびに、「手術は今度の外来で考えましょう」という回答を繰り返す病院があります。明確な治療方針を決定できないと考えられます。

  7. 外来担当医が毎回変わる

    大動脈疾患、特に大動脈瘤や慢性大動脈解離は年単位で病状が進行していきます。受診をするたびに担当医が替わっている病院では、継続的な診療が行えない可能性があります。

日本医科大学付属病院
心臓血管集中治療科 病院講師・医局長
 圷 宏一

大動脈瘤の侵襲的治療をどこに依頼するか?- 医師の視点から -

私は血管内科医師です。

自分で侵襲的な治療を行わない私は、適応があるときには侵襲的治療を第3者にゆだねることになります。自分の患者さんの「侵襲的治療をどこに依頼するか」は極めて重要です。それは患者さんの生死を分けることになるからです。

予定手術は緊急手術と違って、元気に歩いて入院します。したがって、手術がうまくいかなかった場合には、「あの手術さえしなかったらこんなことにはならなかったのに」、ということになるわけです。

つまり紹介する側は患者さんの運命を紹介先に託すわけで、少しでも患者さんにとって「いい施設」に紹介したいと思っています。ではどういう施設が本当の意味で「いい施設」なのでしょうか?

  1. 何もしないことを治療の選択肢に入れてくれる施設

    大動脈瘤の治療は大別すると、手術をする、ステントグラフトを内挿する、などの侵襲的治療の他に(今は)手をつけないで内科的に降圧治療をしつつ経過観察をする、の3つに分けられると思います。

    私はこの3つ目を大切にしています。つまり、「まず侵襲的に治療ありき」ではなく、「内科的に経過観察をしたときの破裂の可能性は、本当に治療のリスクを上回るのか? 手術をすれば完全に元に戻るまで半年はかかるので、破裂までの時間が長くなくてもこのままに経過をみて、その時間を大切にするほうがいいのではないか?」などを考えるべきであると思います。

    この判断は明らかなケースばかりではありません。手術の成績ばかりがクローズアップされますが、あえて侵襲的治療をしない選択も含めて、患者さんに説明したうえで、その先にある「手術なのか、ステントグラフトなのか」という議論にすすむべきであると考えます。

    つまり、まず侵襲的治療を前提としないところから説明を始めてくれる施設がいい施設であると思います。もちろん、「手術をしないリスク」「手術をするリスク」を正確に説明するためには、豊富な知識と豊富な手術経験が前提となっており、どの施設でもこれができるわけではありません。

  2. 手術とステントグラフトの両方を選択肢としてバランスよく説明してくれる施設

    さて、侵襲的治療をすることになったとすれば、手術なのかステントグラフトなのかを決めなくてはいけません。それぞれの治療には専門的な「適応」があってどちらかしか選択肢がない場合もあり、またどちらでも選べる場合もあります。

    それぞれの治療のメリットとデメリットを十分に説明してくれて、どちらでもいいのか?それともどちらかといえば一方のほうがいいのか?どの位その治療のほうがいいのか?その理由は何か?などを十分に説明して患者さんに納得させてくれる施設がいい施設です。

    また、施設によって、手術成績はいいがステントグラフトはほとんどしない、もしくはその逆のこともあり、同一施設での手術とステントグラフトのどちらも行われていれば安心です(そうでない場合には他施設に紹介をしてくれれば問題がありません)。

  3. 手術(あるいはステントグラフト)の件数の多い施設

    客観的に施設のレベルを知る方法として、最も客観的な指標はその施設の手術成績です。手術成績は「成功率」と「手術件数」にわけることができます。成功率はどの位の割合で手術が成功するかということを表しています。しかし、手術の難しい患者を断って手術のしやすい患者ばかりを手術していれば成功率は高くなるわけで、うのみにできないところもあります。

    したがって手術件数こそいい施設の重要な要因であり、手術件数が多い=技術が高い、という図式は一般論として正解だと思います。それ以外のいい施設の要素として手術を受けた人の評判も重要ですがこれは数字に表れません。術後の満足度は術後管理の充実と術後の十分な説明を反映しています。しかしこれを知ることはなかなか困難であると思います。

以上、血管内科医が考える、侵襲的治療が必要となった患者を紹介するに当たっての「いい施設」を列記してみました。

どの項目も共通するのは、医学的に十分な根拠に基づいた説明と、それを患者さんと家族に伝えて十分な納得をしてもらうことであると思います。医師の独りよがりの考えを押し付けるのでもなく、また患者さんの意見のみにひきずられるわけでもない、患者さんの人生観をも考慮に入れた治療選択を、高い技術によってなしうる施設こそ「いい施設」であると信じてやみません。

貴方に手術を勧めた医師にピンとこないのであれば、躊躇なく別の施設のセカンドオピニオンを求めるべきです。なぜなら、そこは貴方の命を預ける場所なのですから。