大動脈瘤の専門医 日本で唯一の大動脈専門医療センター

大動脈疾患について

大動脈瘤について【基本編】

大動脈瘤

一口に大動脈瘤といっても、発生する場所や形によりさまざまです

腹部にできる腹部大動脈瘤、胸部にできる胸部大動脈瘤、胸部から腹部にまたがってできる胸腹部大動脈瘤などがあります。動脈瘤は血管の老化現象である動脈硬化が原因となるばあいがおおいといわれています。つまり、歳をとるとだれでもこの病気になる可能をもっているのです。とくに、動脈硬化を促進する原因:喫煙、高血圧、糖尿病、高コレステロール血症などをもっている方は可能性が高くなります。

大動脈の構造 イメージ

大動脈瘤

しかしながら、ほとんどの大動脈瘤は無症状です

したがって、他の病気のために検査をしたとき、偶然発見される場合が多く、逆にいうと検査をしなければ発見されることはありません。大動脈瘤は無症状というところに、落とし穴があります。しかも、健康診断などでおこなわれている胸部レントゲン検査では、大動脈瘤があっても発見されない、見逃される場合が多いのです。仮に、病院に行って、“大動脈瘤が心配なので、検査して下さい”などと頼んでも、せいぜい胸部レントゲンをとられて、心配ないと言われることが多いようです。本来であれば、大動脈瘤の診断に欠かせないCT撮影をおこなって、大動脈瘤を発見しなければなりません。

なぜここまでして、症状もなく、何の問題もない大動脈瘤をわざわざ発見しなければならないのでしょうか?

それは、大動脈は通常直径が2~3cmですが、ある一定の大きさ(5~6cmといわれています)を超えると大動脈瘤とよび、この大きさになると血管が破裂する可能性が増大します。動脈が破裂すると体内に大出血をおこし、手術をおこなっても救命することが困難になります。したがって、無症状の動脈瘤を発見し、破裂する前に手術をおこなうことが重要となります。動脈瘤の治療の目的は、まさに、この破裂の予防にほかなりません。

では、どうやって動脈瘤を発見すればよいのでしょうか?

これには、大動脈瘤の治療実績がある医師を受診し、胸部および腹部のCTを撮影し、大動脈に異常がないことを確認するのがよいでしょう。腹部大動脈瘤などは腹部超音波検査などで発見されることがありますが、正確な大きさの診断にはやはりCT検査が不可欠です。無症状の大動脈瘤が発見されれば、大動脈瘤破裂による突然死が大幅に減少することになるでしょう。

大動脈解離(解離性動脈瘤)

大動脈解離も最近非常に増えている病気です

腹部にできる腹部大動脈瘤、胸部にできる胸部大動脈瘤、胸部から腹部にまたがってできる胸腹部大動脈瘤などがあります。動脈瘤は血管の老化現象である動脈硬化が原因となるばあいがおおいといわれています。つまり、歳をとるとだれでもこの病気になる可能をもっているのです。とくに、動脈硬化を促進する原因:喫煙、高血圧、糖尿病、高コレステロール血症などをもっている方は可能性が高くなります。

大動脈瘤 イメージ

いったい、何が起ったのでしょうか?

大動脈解離は、簡単にいうと、大動脈の血管壁が裂けている状態です。裂けているといっても、破れているわけではありません。血管壁の内側の膜に亀裂ができ、内側と外側の膜の間に血液が流れ込んだ結果、血管を2重構造にしてしまうのです。

動脈は心臓から始まり、全ての臓器に分枝血管を出して血液を供給しています

大動脈に解離がおこると、いずれ分枝血管に血液が流れなくなり、臓器の血流障害(虚血)がおこります。血流障害のおこる場所によって、例えば、心臓の虚血は心筋梗塞、脳の虚血は脳梗塞、腎臓の虚血は腎不全、腸管の虚血は腸管壊死、などなど、致死的な合併症を引きおこし、高い死亡率を呈します。このような動脈解離に対しては緊急手術で対応する以外ありません。

治療の基本

診 断

大動脈瘤の治療は、正確な診断から始まります。当センターでは最新型マルチスライスCT装置により超高密度0.6mm間隔で撮影した画像を元に、大動脈瘤の場所、大きさ、形などを正確に診断します。

経過観察

大動脈瘤の大きさ、形などによっては、手術などの治療を行わず、定期的(多くは一年毎)に経過を診ていく場合があります。

ステントグラフト

最近注目されている治療法です。体に対する負担が少なく、入院期間も手術に比べて短いなどの長所があります。逆に、ステントが対応できないのもがあることや、手術に比べ確実性に劣るなどの短所もあります。当センターでは過去に数百例のステント治療実績を持ち、ステント治療を専門に行う血管内治療部門医師が担当します。

手 術

手術治療は数十年にもおよぶ実績があり確実性・耐久性に優れた治療法です。また、すべての大動脈瘤に対して治療が可能です。しかし、ステント治療に比べ侵襲が大きく、体力の回復などに時間がかかるため入院期間が長くなります。また、高度な手術技術が必要なため、手術可能な施設が限定されます。

当センターでは、正確な診断をもとに、それぞれの専門家が患者さんひとりひとりに最も適した治療法を選択し、それを各部門のエキスパートたち(医師・看護師・臨床工学士・理学療法士・栄養士・心理療法士・医療コーディネーターなど)がいわゆるオーダーメイドの医療を実践しています。

  ステント治療 手術治療

・体の負担が少ない
・入院期間が短い
・輸血が不要
・切開創が小さい
・確実な治癒
・耐久性に富む
・すべての大動脈瘤に対応

・確実性に乏しい
・長期の治療成績が不明
・ステントの対応できないものがある
・高コスト
・高度な手術技術が必要
・手術可能な施設が限定される
・入院期間が長い

胸部大動脈瘤の治療

基本的に動脈瘤の手術は、動脈瘤を切除し、その部分を人工血管で置き換える方法でおこないます(人工血管置換手術といいます)

胸部大動脈瘤は大きくわけて2つの種類があります。
心臓に近い部分の胸部大動脈瘤(上行大動脈瘤/弓部大動脈瘤)と、背中のがわにある心臓から遠い部分の胸部大動脈瘤(遠位弓部大動脈瘤/下行大動脈瘤)です。

胸部大動脈瘤 イメージ

上行大動脈瘤と弓部大動脈瘤は胸の正中部を切開し、人工心肺という器械を装着後、心臓を止めて手術をおこないます

この部位の動脈瘤は脳に行く血管の入り口に近いため、この手術でポイントとなるのは手術中の脳の保護方法です。私たちは、体温を下げて脳に血液を循環させる安全な方法で手術をおこなっており、現在、脳障害はほとんどおこっていません。この種類の動脈瘤手術時間は、およそ5~7時間で、入院期間はおよそ2~3週間です。

遠位弓部大動脈瘤や下行大動脈瘤の手術は、脇の下の肋間(肋骨と肋骨の間)からおこないます

この手術には、さきほどの人工心肺は使わず、血液を迂回させるバイパス回路を使い、心臓を動かしたままで手術を行います。手術時間は3~5時間程で、入院期間は2~3週間です。

腹部大動脈瘤の治療

余病や高齢者であっても手術は可能です

腹部大動脈瘤は、およそ臍(へそ)の高さの腹部大動脈に発生します。
直径が4~5cm以上※のものが手術の対象となります。余病(合併症)の有無や年齢は手術適応(手術をするか否か)には原則的に関係しません。90歳の方でも全身状態に問題がなければ手術を受けることができます。

余病や高齢者であっても手術は可能です
腹部大動脈瘤

腹部の皮膚を10cmほど切開し手術をおこないます

動脈瘤のあった所に人工血管を移植します。手術時間は多くのばあい、1時間半から2時間程で、人工心肺装置も使わず、ほとんどの場合、輸血の必要はありません。

手術の翌日から食事が始まり、歩行も自由にできます

通常は約1週間で退院可能な状態となります。

急性大動脈解離の治療

急性大動脈解離は未治療の場合、非常に死亡率の高い病気です

激痛を伴い発症した患者さんは、しばしば循環不全や臓器の虚血(血流障害)に見舞われます。適切な手術治療が生命の危機を脱する唯一の手段です。私たちはこのような急性疾患に対しても24時間365日対応するシステムをとっています。他県など遠方の患者さんに対しては、救急ヘリコプターによる搬送を行う場合もあります。

大動脈解離 イメージ

大動脈解離 イメージ

手術方法は、“胸部大動脈瘤の治療”で説明した上行大動脈瘤、および弓部大動脈瘤とほぼ同じです

ただし、血管が非常にもろいことが多く、高度な手術技術が必要です。術後は通常の大動脈瘤よりは、ゆっくりとしたリハビリプログラムをおこない、社会復帰を可能にしています。入院期間はおよそ4週間ですが、退院後もある一定期間は、慎重な経過観察が必要です。

大動脈弁・大動脈基部の治療

大動脈弁狭窄症

大動脈弁狭窄症に対しては、弁置換を行います。 人工弁には2つの種類があります。生体弁(生体組織により作られた弁)と機械弁(金属と炭素で作られた弁)です。 生体弁は人間の弁に近い状態の弁で、手術のあとに血液を固まりにくくするワーファリンという薬をのむ必要がないのが長所です。しかし、弁の耐久性は機械弁よりも劣ることが短所です。一方、機械弁は耐久性には問題ありませんが、生涯にわたりワーファリンをのむ必要があります。  一般に、65歳以上の患者さんに対しては生体弁(生体組織により作られた弁)をもちい、それ以外の患者さんには原則的に機械弁(金属と炭素で作られた弁)をもちいて手術を行います。最近は高度の石灰化をもたれている方や、弁の大きさの小さい方が増加しています。

大動脈弁閉鎖不全症

大動脈弁閉鎖不全症に対しては、逆流のおこっている原因により、手術方法を選択します。弁形成、弁置換、あるいは大動脈基部の形成等をおこないます。最近は、出来るだけ自分の弁を修復して逆流を止める方法を選択していますが、個々のケースにより最も良いと考えられる手術方法をおこないます。

大動脈弁輪拡張症、基部異常

大動脈基部とは、大動脈弁とその周辺の大動脈をさします。大動脈弁のまわりが拡張してしまう大動脈弁輪拡張症にたいしては、人工血管と人工弁を併用した手術や、人工血管のみを使用し、弁周囲を修復して拡張を改善させる手術などをおこないます。また、すでに人工弁の手術を受けられていて、人工弁周囲に異常を認める方、大動脈弁から大動脈に異常を認める方などにたいしても、大動脈基部の手術をおこないます。特に、マルファン症候群の方にたいしては、この手術が必要となります。

大動脈弁・大動脈基部の治療イメージ

ステントグラフトによる治療

はじめに

2007年より企業製の大動脈瘤治療用のステントグラフトが保険適応となり国内でも使用可能となりました。ステントグラフトはステントと呼ばれる金属のバネの部分とそれを被覆するグラフトと呼ばれる人工血管の部分からできています。腹や胸を切開することなく、足の付け根の動脈からカテーテルを使用して、このバネ付き人工血管を大動脈瘤部分に留置します。大動脈瘤はそのままですが、瘤の部分には血圧が直接かからなくなりますので、破裂の危険がなくなります。通常の手術に比べ体の負担が少ないのが特徴です。

ステントグラフト
ステントグラフト

専門医により適切な診断と治療をおこないます

すべての大動脈瘤がステントグラフトで治療できるわけではありません。また、ステントグラフトはすべての点で手術治療よりも優れているわけではありません。国内では大動脈瘤のおよそ10-20%がステントグラフトにより治療されています。大動脈瘤の治療を行っている施設の中には、ステントグラフトの治療だけを行い、手術治療をほとんど行っていない施設があります。治療方針がステントグラフトに偏ってしまうと、手術の方が良い場合にもステントグラフトを施行され、最悪の場合には、再手術が必要になり、その手術は初回以上に困難な手術となってしまうこともあります。ステントグラフト治療と手術治療の両方をバランスよく行っている施設で適切な診断、治療を受けることが大切です。 川崎幸病院・川崎大動脈センター/血管内治療部門は、専門の大動脈外科医・放射線科医・循環器内科医・臨床工学士によって構成されており、あらゆる角度からステントグラフトの可能性を検討し、治療方針を決定しています。

ステント治療の選択には、豊富な大動脈疾患治療経験にもとづく適切な判断が必要です

ステントグラフト治療の選択には専門的な知識と判断が必要です。ステントグラフト治療には解剖学的適応と言われる適応条件があります。当センターでは一人一人の患者さんの状態を詳細に検討し、その患者さんにとって最良なステントグラフト治療(オーダーメイドステント、手術との併用など)を行っています。このため他の病院で ステントグラフトが困難、あるいは不可能であるといわれた患者さんに対しても適切な対応が可能となっています。(ステントグラフト治療は長期の成績が不明です) 腹部大動脈瘤の前向き比較試験で、術後四年間での動脈瘤関連死は外科手術よりもステントグラフト治療の方が有意に低いことが証明されています(Lancet 365: 2179, 2005)。10年前と比べると最近のステントグラフトでは改良され、治療成績も格段に向上しています。ただし、この治療の歴史は10数年程度であり長期の成績は不明です。

ステント治療の長所を活かすことが大切です

大動脈瘤の形や場所によっては、ステントグラフト治療のほうが手術治療よりも良い場合もあれば、逆の場合もあります。川崎幸病院大動脈センターの治療方針としては、患者さんの全身状態を正確に評価し、手術治療がよいのか、ステント治療がよいのかを専門の医師が判断しています。他の病院でステントグラフト治療が困難と診断された場合にも、ステントグラフト専門外来で患者さんの相談に応じております。

何歳まで手術は可能か?

よく大動脈瘤の手術は何歳くらいまで可能ですかという質問がよせられます

結論からいえば、年齢の上限はありません。実際、私どものセンターでは90歳以上の方も手術を受けられてお元気になっています。簡単な目安は、90歳でも、ご自分の身の回りのことを日常的にされている方であれば、手術が可能です。逆にいえば、たとえ年齢が若くても手術に耐えられないような患者さんもいらっしゃいます。つまり、暦年齢だけで、手術の可否を決めることはできないということです。

余病とは、動脈瘤以外の病気を持っている場合です

糖尿病や膠原病などの全身の病気、あるいは心臓、肺、腎臓などの臓器障害をもたれていることがあります。もちろん、余病の程度が重症で、大動脈瘤の手術ができないということもあります。しかし、余病をお持ちかたでも、手術方法を工夫したり、補助循環法を追加したりすることにより、多くの患者さんで手術が可能となります。

余病の程度と手術の関係は、医師の熟練度におおきく依存します

したがって、今現在余病のために手術が不可能であると医師からいわれている(あるいは手術を断念している)患者さんも、一度、大動脈の専門医師の診察を受けることをおすすめします。手術を含めて治療が不可能であるということは、多くの場合ありません。ただし、高度の意識障害、末期がん、および寝たきりの患者さんに対しては手術治療が適当ではないと判断することがあります。

インフォームドコンセント

手術を含めた医療行為をおこなうばあい、医療者側が患者さんに対して、医療の内容、危険性、効果などについて十分な説明をおこなったうえで、患者さんがその医療行為と危険性、効果を理解し、ご自身の責任において同意することが必要です。今日、医療行為に関しては、この説明と同意(インフォームドコンセント:説明にもとづいた同意)なしにおこなうことは困難です。

同意が必要

手術は患者さんおよびそのご家族の同意無しにはできません。あくまでも手術前に、医師にできることは、手術を受けた場合の利益・損失、受けなかった場合の利益・損失についてお話をさせて頂くことだけです。最終的に手術を受けるか受けないかは、患者さんご本人あるいはご家族の判断に委ねられています。しかし実際は、ごくわずかの期間に、ご自身の病気・治療方法を理解し、それを選択することは容易なことではありません。従って、患者さんと私どもが十分時間をかけ、医師の説明と患者さんからの質問を繰り返しおこなった結果として、治療方法について判断していただくことが一般的です。

難易度の高い手術は敬遠?

近年、医療事故が頻発、医療に対する信頼は低下し、医療訴訟は増加しています。このような状況とは関係なく大動脈疾患患者は年々増加しています。医療訴訟の増加にともない、困難な手術・危険な手術は医療者側から敬遠される傾向がみられます。大動脈外科手術は一般の心臓外科手術以上に高い技術を要求される手術です。実際、当センターに紹介されてくる患者さんの約半数は、大学病院や総合病院の心臓外科からの紹介です。このことは、技術的に難易度の高い大動脈手術は専門医師にまかせているともいえますが、一方で、困難な手術が心臓外科医から敬遠されるという現象をあらわしているのではないでしょうか。私どもは大動脈疾患に関して、常にトップクラスの手術・診療内容を提供しているとの自負があります。従って、非常に難易度の高い手術に対しても手術が必要な場合(手術適応がある場合)には、手術をおこなうことを原則としています。

大動脈瘤について【詳細編】

胸部大動脈瘤

定義・分類

胸部大動脈瘤は胸部(横隔膜より上)に発生する大動脈瘤です
心臓に近い部分から順に、基部(バルサルバ洞)動脈瘤・上行大動脈瘤・弓部大動脈瘤・下行大動脈瘤に分類します。

大動脈の構造 イメージ

大動脈瘤

破裂頻度と統計

胸部大動脈瘤の年間破裂率

大動脈の直径 破裂率
40mm未満 0%
40mm~49mm 0%~1.4%
50mm~59mm 4.3%~16%
60mm以上 10%~19%

胸部大動脈瘤が解離を起す頻度

大動脈の直径 解離頻度
40mm未満 0%
40mm~49mm 3%~8.5%
50mm~59mm 7.7%~8.5%
60mm以上 13%~28.6%

症状

胸部大動脈瘤はほとんどが無症状です。一部に症状が出るものがあります。
以下は、代表的な大動脈瘤の症状です。

症 状 原 因
嗄声
(声がかすれる)
大動脈瘤が神経を
(圧迫することによる
嚥下障害 大動脈瘤が食道を
(圧迫することによる
痛み 切迫破裂あるいは破裂時

治療方針

大動脈瘤の直径により、治療方針が決まります。

大動脈の直径 治療方針
50mm未満 手術適応
60mm以上 手術適応

治療法

基部(バルサルバ洞)置換手術

大動脈弁輪拡張症や基部の異常に対しておこなう手術です。基部の状態により、1) Bentall手術、2) Cabrol手術、3) David手術、4) Yacoub手術、などがあります。
基部(バルサルバ洞)置換手術の体外循環方法は原則的に通常の心臓外科手術で用いる体外循環方法です。心臓を心筋保護液により一時的に停止し、脳およびその他の臓器には人工心肺より血液を潅流させます。手術方法別に説明します。
Bentall手術は大動脈弁を切除し、左右の冠動脈を大動脈から切り離し、人工弁のついた人工血管(Composite graft)を取り付け、左右の冠動脈を人工血管に再移植します。
Cabrol手術はBentall手術の変法で、左右の冠動脈を一本の人工血管でつないで、それを本管の人工血管に吻合するもので、基部置換手術の再手術などで用います。
David手術とYacoub手術は、人工弁を使用せず、自分の大動脈弁を修理して使用します。
Bentall手術で使う人工弁を自分の弁を使っておこなう手術と考えればわかりやすいかもしれません。
手術方法にはそれぞれ長所と短所があり、この方法が一番良いというものはありません。患者さんの状態に一番適した方法を選択することが大切です。

Bentall手術・Cabrol手術:長所は手術手技が単純であり手術がやりやすいこと、どのような状態の患者さんに対しても“無難にできる”手術です。また、人工弁と人工血管を使いますので、耐久性に優れており、一度手術をおこなえば、再手術の必要はありません。一方、人工弁を使用しますので、人工弁に血栓が付着しないようにワーファリン(血栓防止剤)を生涯に渡り服用する必要がある点が短所です。
David手術とYacoub手術:自分の大動脈弁を使用しますので、流体力学的に有利です。また、ワーファリンを服用する必要が無いので、出産を予定している若い女性などにも施行することができます。しかし、あくまでも自己弁が修理可能な範囲でないと使用できないため、全ての人におこなえるわけではありません。また、長期の耐久性については現時点では評価が定まっていません。

上行・弓部大動脈瘤人工血管置換手術

大動脈外科の中で最も多い手術の一つです。急性大動脈解離・上行大動脈瘤・弓部大動脈瘤などに対しておこないます。正中切開(胸の正面を縦に切開)で開胸し、人工心肺装置を用いて、体温を30分ほどかけて20℃まで冷却します。この段階で心臓は停止します。全身の血液循環を停止し、脳は冷却した血液を潅流します。血液の循環を止めている間に動脈瘤を切除して、遠位大動脈・弓部3分枝を吻合します。体外循環を再開させて、体温を戻しながら近位大動脈を吻合し、心臓の拍動を再開させます。
かつてはこの手術による脳障害が問題とされていましたが、川崎幸病院・川崎大動脈センターでの2005年の脳障害の発生頻度は1%程度まで改善しています。手術時間はおよそ6時間です。
手術の翌日には、呼吸器がはずれて会話や飲水が出来るようになります。手術後2日目で食事が始まり、5日目でトイレ歩行、7日目でシャワー入浴が出来るようになります。

弓部大動脈瘤
弓部大動脈瘤

下行大動脈瘤人工血管置換手術

下行大動脈瘤に対する手術です。左の脇の下に30cmほどの皮膚切開をおき、左側の上から5番目の肋骨の間を開いておこなう左開胸で手術をおこないます。体外循環装置を使用しますが、心臓は動かしたままで、体温も下げません。動脈瘤の前後の血流を一時的に遮断して、動脈瘤を切除し、その部分に人工血管を移植します。
手術時間は4時間程度、手術の当日には、呼吸器がはずれて会話や飲水が出来るようになります。手術後2日目で食事が始まり、5日目でトイレ歩行、7日目でシャワー入浴が出来るようになります。この手術でよく誤解されるのは、対麻痺(いわゆる下半身不髄)が起こる頻度が高いのでは?ということですが、この手術で対麻痺が起こることはほとんどありません。

下行大動脈瘤
下行大動脈瘤

合併症予防

脳障害

かつては胸部大動脈手術で問題になる合併症でした。しかし、近年脳障害の予防法が確立し、この合併症は非常にまれなものになりました。
脳障害がまれになった理由は、
1) 脳保護法の進歩
2) 手術技術の改良
があげられます。
脳保護法は、超低体温法(体温を人工心肺装置を使って25-20℃くらいまで低下させる方法)と選択的脳潅流(低温の血液を脳に直接送る方法)あるいは逆行性脳潅流(静脈から逆行性に血液を脳に送る方法)を組みあわせることにより脳血管を吻合している間の脳保護が安全なものとなりました。また、脳障害の多くは、脳血管内の動脈硬化のカスが吻合操作中に脳に詰まることが原因でした。吻合操作を改良し細心の注意をはらうことにより、この合併症は大幅に減少しました。

呼吸障害

高齢者や喫煙暦のある方は手術中や術後に呼吸器合併症を起す場合があります。この合併症の予防には、
1) 徹底した術前の禁煙と呼吸練習
2) 適切な体外循環法の選択
3) 術後早期離床と呼吸リハビリテーション
が欠かせません。
当センターでは、外来での呼吸練習指導、呼吸機能に応じた補助循環の変更、術後の看護師・理学療法士による徹底した呼吸リハビリテーションにより、高度呼吸機能障害を持つ患者さんの手術においても術後の呼吸器合併症が格段に減少しました。

腎障害

手術中にできるだけ血液浄化をおこない、術後も尿量の維持をおこないます。適切な血圧管理と、体液量の管理をおこなうことにより、また近年の体外循環時間の短縮や手術時間の短縮により、大幅に腎臓障害を減らすことに成功しています。

治療成績

上行大動脈手術

  全国
(2003年-2004年※)
川崎幸病院
(2003年-2007年※)
死亡率 手術総数 死亡率 手術総数
上行大動脈手術 2.9% 2386 - -
弓部大動脈手術 5.0% 2830 1.2% 232
下行大動脈手術 3.9% 1395 1.5% 126
ステント治療 5.7% 262 - -

※待機手術のみ

胸腹部大動脈瘤

定義・分類

胸部から腹部にわたる大動脈瘤。一般的に大動脈瘤の存在する場所によって4つのタイプに分類します。(図)手術方法に関しても、この4つのタイプによってそれぞれ置換範囲や体外循環の方法が異なります。

胸腹部大動脈瘤の分類図

破裂頻度と統計

胸部大動脈瘤の年間破裂率に準じます。

大動脈の直径破裂率
40mm未満0%
40mm~49mm0%~1.4%
50mm~59mm4.3%~16%
60mm以上10%~19%

症状

胸部大動脈瘤、腹部大動脈瘤と同様にほとんどが無症状です。

治療方針(病型分類)

最大径50mm以上※(ガイドラインでは60mm以上)を手術適応としています。50mmに満たない場合も、半年から1年毎にCT撮影をおこない、経過を観察します。手術は大動脈の直径が50mm以上の部分を中心に切除し、人工血管に置換します。手術方法は、病型分類により異なります。

Ⅰ型

体外循環装置を使用し、肋間動脈(8番目から12番目の3~4対)の再建と、場合によって腹部4分枝血管の再建をおこないます。

Ⅱ型

体外循環装置を使用し、肋間動脈(8番目から12番目の3~4対)の再建と、腹部4分枝血管の再建をおこないます。ひきつづき、腹部大動脈の再建をおこないます。

Ⅲ型

体外循環装置を使用し、腹部4分枝血管の再建をおこないます。ひきつづき、腹部大動脈の再建をおこないます。

Ⅳ型

体外循環装置を使用せず、腹部4分枝血管の再建をおこないます。つづき、腹部大動脈の再建をおこないます。

治療法

胸腹部大動脈瘤人工血管置換手術
(おもにⅡ型の方法を記載します)

胸腹部大動脈瘤(下行大動脈から腹部大動脈全長に渡る動脈瘤)に対する手術です。
下行大動脈瘤と同様に左開胸(左の脇の下に30cmほどの皮膚切開をおき、左側の上から5番目の肋骨の間を開いておこなう)でおこないますが、さらに開腹をおこない、胸部から腹部までの大動脈を同時に置換する手術です。体外循環も下行大動脈瘤と同様におこない、心臓は動かしたままで体温も下げません。腹部臓器(肝臓、腎臓、腸管)に血液潅流や保護液の注入をおこない臓器を保護します。
1) 近位下行大動脈、2) 肋間動脈、3) 腹腔動脈、4) 上腸間膜動脈、5) 左右腎動脈、6) 遠位腹部大動脈をそれぞれ人工血管に吻合し、血流を再開して手術を終了します。“最難関の大動脈手術”といわれていますが、当センターでは標準的手術に属します。

合併症予防

脊髄障害

手術中の脊髄液ドレナージ、末梢大動脈血液灌流、各種脊髄保護関連薬剤の使用、中等度低体温療法などにより、脊髄障害の予防が可能となっています。

腎障害

この手術では一時的に腎臓の血流を止めるため、適切な腎保護法が必要です。定期的に腎保護液を腎臓に注入することにより、手術に伴う腎機能低下は、ほとんどなくなりました。

腹部大動脈瘤

定義・分類

腎動脈より末梢から総長骨動脈分岐部までの腹部大動脈に存在する大動脈瘤。

破裂頻度と統計

腹部大動脈瘤の年間破裂率

大動脈の直径破裂率
40mm未満0.3%
40mm~49mm1.5%
50mm~59mm6.5%
60mm以上急激に危険性が増大する

症状

腹部大動脈瘤も胸部大動脈瘤と同様に、原則的に症状がありません。腹痛や違和感も腹部大動脈瘤の患者さんの訴えとして時々見られますが、大動脈瘤と直接関係のある場合は極めて稀です。体のやせている患者さんなどでは、仰向けに横になった時などに、おヘソのあたりに拍動性の腫瘤(しこり)をご自身で触れることがあります。大動脈瘤の破裂または切迫破裂状態では腹痛を認める場合が多くあります。特に破裂は激痛を伴い、ショックとなる場合があります。

治療方針

これまでは、最大径50mm以上を手術適応としてきましたが、最近は45mmで手術になる場合が多くあります。手術の危険性はほとんど無いため、超高齢者や合併症をもたれている患者さんでも、ほとんどの場合手術が可能です。

治療法

川崎大動脈センターでは、小切開(10cm以下)による手術をおこなっています。これまでの腹部大動脈瘤の手術は、腹部を20cmほど切開し、腸管を圧迫(あるいは移動)する手術をおこなっていたため、術後、腸管の動きが悪くなり、食事の開始までに数日を要していました。小切開手術は腸管を移動させることが無いため、術後腸管の動きが悪くなることがほとんど無く、すぐに食事を開始することができます。実際の手術は、全身麻酔下で腎動脈の遠位側で腹部大動脈を遮断し、大動脈瘤を切除した後、その部分に人工血管を移植します。実際に移植する人工血管の長さはおよそ10~15cmです。人工心肺装置は使用しません。輸血もほとんどの場合必要ありません。手術時間はおよそ1時間半から3時間です。

大動脈解離

定義

大動解離は、大動脈内膜に生じた亀裂から血液が内膜に流入し、外層と内層に解離させていく疾患。Stanford A型と Stanford B型に分類されます

定義・分類

分類

時期による分類急性期  2週間以内
亜急性期 3週間から2ヶ月以内
慢性期  2ヶ月以降
部位による分類Stanford A型
Stanford B型

破裂頻度と統計

A型急性大動脈解離手術をおこなわなかった場合の死亡率は、発症より24時間以内が20%、48時間で30%、1週間で40%、1ヶ月で50%が死亡する。
解離の偽腔は将来瘤化する可能性がある。
遠位側の偽腔が閉塞する率は、10%以下。
B型急性大動脈解離手術をおこなわなかった場合の死亡率は、1ヶ月で10%以下。
B型慢性大動脈解離大動脈瘤拡大の因子は、1:動脈径40mm以上、2:偽腔に血流が存在。

症状

約70%~80%に胸背部痛があります。
 手術を行わない場合(未治療の場合)の急性大動脈解離での合併症は発生率は以下のとおりです。

狭心症・心筋梗塞3-7%
脳虚血3~7%
上肢虚血2~15%
下肢麻痺4%
腸管虚血2~7%
腎障害7%
下肢虚血7~18%

治療方針

時期と病型により治療方針が決まります。

手術治療

手術が必要な状態とは以下のような場合です。

急性A型大動脈解離緊急手術
急性B型大動脈解離瘤径が5cm以上・分枝の血流障害・切迫破
慢性A型大動脈解離瘤径が5cm以上
慢性B型大動脈解離瘤径が5cm以上※

※瘤径が5cm以下の慢性大動脈解離は、発症後、3ヶ月、6ヶ月、1年、1年6ヶ月、2年、以降は1年毎にCTによる経過観察をおこないます。大動脈最大径が50mm以上となったら手術を考えます。

手術適応の根拠

以下の死亡率が手術を行うかどうかの根拠となっています。

死亡率保存治療手術治療
急性A型大動脈解離55.9%26.6%
急性B型大動脈解離9.6%32.1%

※つまり、保存療法(手術をしない)場合と手術治療を行った場合との死亡率を比較した場合、急性A型大動脈解離では手術治療の方が死亡率が低い(26.6%<55.9%)ので、手術治療となります。また、急性B型大動脈解離では保存治療の方が死亡率が低い(9.6%<32.1%)ので、保存治療となります。

保存的治療法

手術適応とならない場合の治療については、保存的治療を行います。
保存的治療は大動脈解離リハビリテーションプログラムにのっとり、約3週間から4週間をかけて徐々に運動量を上げていくリハビリテーションを行います。

急性期血圧の目標値は100~120mmmHg(上)とされているが科学的根拠は無い。
慢性期血圧の目標値は130mmmHg(上)とされているが科学的根拠は無い。
日常生活に関しての制限はほとんど無い。
運動制限が必要であるという科学的根拠は無い。

補 足

偽腔閉塞型(早期血栓閉塞型)のA型急性大動脈解離

  • 偽腔閉塞型の内科治療をおこなったものの43%に解離の進行が見られ手術となっている
  • 大動脈径が50mmを超えるものは解離が進行する高危険群。

以上の理由により、合併症を持つものは緊急手術、大動脈径が50mmを越えるもの、形態に変化を認めるものなどが手術となります。

発生数(厚労省概算)9000-10000人(年間)
手術件数(日本)2500-3300件(年間)
年齢別発症のピーク大動脈解離 男女とも50-70歳代
発症時期夏場に少なく、冬場に多い。午前中に多い

ステントグラフトによる治療

ステントグラフトとは

ステント:心臓カテーテル治療などで使われる金属製の骨格でできた筒状のバネ

グラフト:合成繊維でできた薄い人工血

ステントグラフトとはステントといわれる金属でできたバネの部分をグラフトと言われる人工血管で被覆したものです。
これを血管の中に留置することにより、瘤に直接的に血圧がかからないようになり、破裂の予防を行うことができます。ステントグラフトは折りたたんで、直径7-10mm程度のカテーテル内に収納し、足の付根から動脈内にカテーテルを入れ、放射線イメージをみながら胸部や腹部の動脈瘤の部分に留置します。
この方法だと両脚の付け根(ソケイ部)を数cm切開するだけで治療が行えるため、胸部や腹部を大きく切開する必要がなくなり、患者さんの体に対して、より少ない負担で動脈瘤の治療ができるといわれています。
特有な合併症として、エンドリーク(動脈瘤内に血流が残ること)、ステントグラフトの移動などが稀にみられることがあります。言い換えれば、治療したはずの大動脈が拡大・破裂する危険性もゼロではありません。そのため、治療後もCT等による追跡調査が必須であり、追加の治療(ステントグラフトの追加・開胸や開腹手術)が必要になる場合もあります。

ステントグラフト

①右上腕動脈-右大腿動脈間に pull through wire を完成させる。
②ステントグラフト(main graft)を腎動脈下腹部大動脈から右総腸骨動脈にかけて移植する。
③短脚(左脚)に左大腿動脈から穿刺にてカテーテルを挿入する。
④この短脚側に追加のステントグラフト(leg)を追加挿入し、動脈瘤を exclusion する。

血管内治療部門により適切な診断と治療をおこないます

川崎大動脈センター/血管内治療部門は、専門の大動脈外科医・放射線科医・循環器内科医・臨床工学士によって構成しており、診断から治療まで一貫した方針により適切な治療を行います。

ステントグラフト治療と手術治療とバランスよく行っている施設での診断、治療が必要です

手術治療のみ行っている施設であれば、一般にステントグラフトが良いであろうと思われる例でも、手術を勧められる場合があります。同様にステントグラフトが主で、手術治療はほとんど行っていない施設にでは、一般に手術治療が良いであろうと思われる場合にもステントグラフト治療を勧められる事が多いと思われます。その結果、最終的には手術が必要になってしまう場合があります。一般的にステントグラフト後の手術は、初回手術よりも非常に困難な手術となってしまいます。手術をあまり行っていない施設では、選択肢がステントグラフトに限られるだけでなく、そういったトラブル時の手術対応も困難となる可能性もあります。ステントグラフト治療は、とりあえず出来そうだからやってみるのではなく、ステントグラフトを入れた結果がどうなっていくかを考慮し判断する事が非常に大切です。ステントグラフト治療と手術治療の両方をバランスよく行っている施設で適切な診断、治療を受けることをお勧めします。

腹部大動脈瘤のステントグラフト治療

1990年にアルゼンチンのパロディ医師によって始められた自作ステントグラフト治療は、欧米では2000年ころから数々の企業製品が出現し、成績も飛躍的に向上しています。日本では2007年から欧米の企業製腹部大動脈ステントグラフトが認可され、国内でも使用可能になりました。権威ある医学雑誌Lancet誌にも腹部大動脈瘤の前向き比較試験で、術後四年間での動脈瘤関連死は外科手術よりもステントグラフト治療の方が有意に低いことが証明されています(Lancet 365: 2179, 2005)。10年前と比べると最近の企業製ステントグラフトは改良がすすみ、治療成績も格段に向上しています。今後もますます技術が進歩し成績が向上することが期待されます。ただし、手術治療が50年以上の歴史があるのに比べて、現時点でのステントグラフト治療の歴史は10数年程度であり、20年、30年といった長期の成績は不明です。また、ステントグラフトは動脈瘤の解剖学的特性によりその成績が影響されるため、解剖学的適応基準に準拠することが使用の条件となっています。

一般的な腹部大動脈瘤ステントグラフト治療の適応基準は以下の通りです。

身体的な適応基準として
・過去に開手術の既往があり、癒着により手 術が困難と予測される場合。
・心疾患、呼吸器疾患、脳血管疾患等のため 開腹手術が危険と判断される場合。

解剖学的な適応基準として
・腎動脈下腹部大動脈瘤
・腎動脈下大動脈に正常大動脈15mm以上
・60度以下の屈曲
・総腸骨動脈の拡大15mm以下
・腸骨動脈の正常部分の長さが10mm以上

簡単に説明すると、動脈瘤の前後に正常な部分が充分あること、屈曲、蛇行が強くないことです。動脈瘤の前後に良い血管がないとステントグラフトの固定が悪く、せっかくステントグラフトを入れてもすき間から血液がもれ(エンドリーク)動脈瘤が拡大、破裂する危険が出てくるからです。上記の解剖学的条件は大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライ(2006年改訂版)から一部改変したものです。数値は製品により異なります。正常部分が若干短くても適応できる製品や、屈曲に強い製品など各企業製品には特徴があり、患者さんの条件に応じて製品の選択をしています。場合によっては自作ステントグラフトで対応する場合もあります。

胸部大動脈瘤ステントグラフト治療

胸部大動脈瘤手術は腹部大動脈瘤に比べ手術の難易度が高く、患者さんへの侵襲(負担)も大きい手術です。ステントグラフトによる負担の少ない治療が可能であれば、患者さんは大きな恩恵を受けることができます。ただし腹部大動脈瘤に比べていくつかの問題があります。
弓部など脳を栄養する血管が分枝していて場所により留置困難。
腹部大動脈に比べ血管が太い、そのためステントグラフト自体が太いものとなり、足の付け根の細い血管からでは挿入できない。
解離性の大動脈瘤には原則使用できない。
以上のような問題点があります。
胸部大動脈の中でも臓器に分かれる枝がない下行大動脈部分ではステントグラフトは非常によい適応となりますが、上行大動脈、弓部大動脈など心臓に近く、脳に分枝する血管がある場所ではステントグラフトは原則的に適応となりません。ステントグラフト治療の原則は動脈瘤の前後にステントグラフトを固定する充分な正常大動脈が必要だからです。腹部では15mm程度必要とされる正常部分は、胸部の場合は血管径が太く血流が非常に多いため20mm程度は必要とされています。
ただし当センターでは手術治療が非常に危険と判断される場合には、脳に分枝する血管にあらかじめバイパス手術を行う(debranching法)、手術とステントグラフトを併用する(open stent法)等の方法も考慮いています。

現在の技術では胸部ステントグラフトで使用するカテーテルは太く、細い足の血管からは挿入することができないという場合があります。体型が小さな日本人は足の血管も細く、胸部大動脈ステントグラフトの約4割は足からの挿入が困難と言われています。挿入困難ではあるが胸部手術はリスクが高いと判断した場合は、場合により開腹し腹部の太い血管からステントグラフトを挿入する、少しでも細い自作のステントグラフトを挿入する、手術とステントグラフトの併用(open stent)等の方法も考慮いています。

大動脈瘤の原因が解離の場合は、原則的にステントグラフトは使用できません。解離した弱い血管にステントグラフトを挿入すること自体に危険性があり、ステントグラフトを入れた場合の効果も証明されていないからです。当センターでも特殊な場合を除き適応としていません。
欧米を中心に大動脈解離症例にもステントグラフトを使用した治験が行われている段階です。治験の結果をふまえ、今後適応を考えていきたいと考えています。

腹部大動脈ステントグラフトに1年遅れ、2008年に日本もでも企業製胸部大動脈ステントグラフトが認可となりました。
このステントグラフトは日本での治験なしに欧米でのデータのみで異例に認可となりました。米国の臨床治験では脳血管障害は4%、一過性または永久的な対麻痺(下半身麻痺)が3%で生じています。2年の追跡期間中に大動脈瘤破裂などで死亡した例が3%ありました。胸部大動脈ステントグラフト治療は、腹部大動脈ステントグラフト以上に手術が必要になった場合の難易度、危険度は高く、ステントグラフトとバランスよく治療を行っている施設で行うべきと考えています。

胸部大動脈ステントグラフト治療が適しているのは以下のような場合です

  • ・下行大動脈に限局した動脈瘤で蛇行が軽度
  • ・食道や肺の手術後で高度な癒着がある
  • ・呼吸機能や身体機能が低く開胸手術の危険性が高度

ステントグラフト治療が適していないのは以下のような場合です

  • ・大動脈解離
  • ・上行大動脈、大動脈弓部の動脈瘤
  • ・血管内に血栓が多く付着している(脳梗塞等の危険性が高くなります)
  • ・胸腹部大動脈瘤(腹部への内蔵に行く血管がでているため

年齢・余病

高齢者

大動脈瘤、大動脈解離は、一般的に70歳以上の高齢者に発症しやすいと言われています。治療方針は、大動脈瘤の形、大きさ、自覚症状の有無により決定され、基本的には年齢制限はありません。よく、「高齢ですが、体力はもつでしょうか?」という質問があります。手術に耐えられる「体力」の医学的指標はありません。しかし、個々の臓器についてその機能を調べることにより、手術が可能であるかの大まかな判断を行います。

脳梗塞

大動脈瘤、大動脈解離は動脈硬化に起因することが多く、動脈硬化は全身の血管病変であるため、脳梗塞などの塞栓症を手術前より合併している患者さんは多数います。しかし、脳梗塞等の塞栓症があるからといって外科治療が不可能ということはなく、術前検査結果をもとに、手術術式にも様々な工夫を行うことにより、脳梗塞を合併している多くの患者さんに対して手術を行っております。

呼吸障害

喫煙歴がある場合や、過去に肺疾患を患ったことがある方は、術前の肺機能検査にて呼吸機能障害を呈している場合があります。術前の徹底した禁煙と、呼吸訓練により呼吸機能の改善を目指します。この場合でも、肺の画像所見等を含めて考慮し、手術を行っております。

腎障害

腎機能障害のある方は、術前に採血や尿検査にてその機能を評価し、場合によっては、人工透析を併用しながら手術を行うため、安全な手術が可能です。

糖尿病

糖尿病により血糖値が高い方は、手術後に創部の治癒が遅れると言われておりますが、術後より厳密な血糖管理を行うことにより、手術創部は特に問題なく治癒していきます。 また、栄養面においても厳密なカロリー管理を行うことで、必要以上の血糖摂取を防ぎます。

ステロイド使用患者

ステロイド製剤は、長期間使用した場合は、免疫力の低下から感染症になりやすいと言われています。また、ステロイド製剤を中止した場合には、原疾患(ステロイドを必要とする疾患)が悪化することもあります。手術をする際には、これらのことを想定して、手術当日からステロイド剤の量を調節することにより、術後も特に大きな影響を与えないよう配慮します。

マルファン症候群

◆(現在制作中です。)

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